「やっぱり怖いんじゃないか。」
再び何処からともなく現れた彼が、そうわらった。
人を傷つけないものが良いのだと、頭を抱える私を楽しそうに見ている。
「生まれた時点で誰も傷つけないなんて不可能だ。」
「解ってる。」
だから、黙ってくれと言い捨て、私は蹲った。
しかし、彼は黙る気はないようだった。
「結局、自分のためだろう。怖いんだろう。」
君はいつもそうだと視線を落とす彼は、どこか悲しげに見えた。
「まだ、」
「まだ、ひとつだけ残ってる。」
私は辛うじて掠れた声を出した。
「それは正解なの?」
彼はまたいつもの表情に戻っていた。
「解らないけど、今は。」
「ふうん。」
そう一言呟き、彼は消えた。
言葉にすると驚くほど凪いで、そうかと私は独りごちた。