71 御伽噺
めでたし、めでたしの物語。
ああ、素敵な物語だったと君は微笑み、
ああ、何て惨い現実だと僕は嘆く。
72
君が大事だなんて言ってみせるけど
結局流れてる血は違うものだから、
君と僕が崖から落ちそうです。
どちらを助ける?
なんて、聞かれたら、
そんなの、迷わず自分なんだ。
きっと。
(と、貴方が泣いた。)
73
「……嘘だけど。」
文脈からすら、
判断できないような本音を、君に。
ああ。
離れたくないな。
それでも
世界は動くし、
明日も来てしまうのだけれど。
74 低体温症候群
僕には
体温なんかないので、
自分以外の感情で
心が動くことなんてないし、
苦悩することなんてないし、
君のために
泣いてもあげられないし、
優しい歌なんか歌えないし、
ただ吐き出すだけで、
ただ、吐き出すだけで 、
(……ああ、ごめんなさい。)
75 マトリョーシカ
開いて閉じて閉じて閉じて
開いて閉じて開いて開いて
最後の最後残った私も
きっと愚かなマトリョーシカ
76 トーキング・マシンガン
77
君の気持ちは分かるよ、とか。
いいや、分かっちゃいないね。
本当に本当に
その言葉が真実だとしたら
今すぐ君は僕の目の前から消えて然るべきだ。
それか、君が僕をこの世から消してくれなきゃ。
(さあ、早く辻褄を合わせて。)
78
情けなかった主人公は
最期の最期に大活躍して
英雄になった。
情けなかった僕は
最期の最期も
きっと、
79
どうせ明日には体液は全て循環して
違う「私」になって、
それなのに、どうして
(今日を哀しまなければならないのだろうか。)
80 食べる
私は私を食べた。
泣き虫な私を、
臆病な私を、
劣等感に塗れる私を、
噛み砕いて、中和して、
そろそろと大人になって、
最後の最期に覚束無い現実が残った。
(食べることは生きることなんて誰が言ったんだろうか。)