怒らないで嫌わないでと少女は泣いた。
私が物心のついた頃には、
もうすでに彼女は部屋のすみに蹲っていたように思う。
暗がりで声を押し殺してなくものだから、
最初は私も彼女に気がつかなかった。
そんな彼女がようやく助けてと呟いたのは
私が彼女の存在をおぼろげながら認めた次の日のことだった。
この部屋にはまだ私と少女しか存在せず、
彼女を助けることが出来るのは、恐らく私だけだった。
しかし、それを知りながら
私はあえて聞こえない振りをした。
彼女はもうそれきり二度と助けてとは言わなかった。
そうして、その代わりに毎日嘆きと謝罪を口にし、
涙を流すようになった。
私はただそれを横目で見ていた。
あの日からきっと彼女の時は止まっている。
しかし、今更彼女をどうやって外に連れ出せというのだろう。
二十数年見て見ぬ振りを続けた私にはそれが分からなかった。